芭蕉と近江/熊谷道夫

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芭蕉と近江 (2015年3月13日)
松尾芭蕉が、膳所(ぜぜ)の地に埋葬されていることを知る人は多くないだろう。1694年、51歳のときだった。木曽義仲を祀る義仲寺(ぎちゅうじ)に埋葬されている。
芭蕉の遺言によるものだが、それほどに彼は近江を愛した。当時、義仲寺があった粟津が 原は、びわ湖に面し景勝の地であったといわれている。 ”行春を あふみ(おうみ)の人と おしみける” 人との出会い、別れ、無常は、芭蕉の句界にとってはなくてはならないものだったのだ
ろう。なぜ彼があれほどまでに旅を重ね、そして”旅に病で 夢は枯野を かけ廻る”と
まで詠んだのだろうか。決して満たされることのない、芭蕉の創作の意思だったのかもし れない。それは完成することのない彼の美学だったのだろう。 Jane Reichhold という人が著した「Basho – The Complete Haiku」という英文の本があ る。その中に  ”世の夏や 湖水に浮(うか)む 浪の上” という句が紹介されている。1688年の夏、大津で作られたものだ。 ”the summer world  floating in the lake  on the waves” と英訳されている。井狩昨卜(いかりさくぼく)の家に招かれたときの作だと言われてい る。 おそらく、びわ湖に面した部屋だったのだろう。暑い夏だというのに、浪が打ち寄せ、まるでわが身が水面に浮かんでいるように涼しく思われる。今でもびわ湖の湖岸に立つとき、 この湖が持つ長い歴史と、水の大きさを感じることがある。

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